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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

と、背に風呂敷包を負うた一人の女が、杉の根本に倒れるように坐って、苦しそうに呻いていた。飛脚は急いでいたが、人通りのない山路で難儀している者を打ちゃって置けないので、その傍へ往った。

「どうした、どうした」と、飛脚は女の肩に手をかけるようにした。

女は妊娠していたが、其処を通っているうちに急に産気づいたので、一人で困り抜いているところであった。女は神様にでも逢ったように喜んで、

「どうか私を助けてくださいませ」と云った。女は阿波から土佐の方へ往く者であった。

飛脚は情深い男であった。産気のついた者をこんな山中にうっちゃって置いては、仮令一人でお産をすることはできるにしても、狼にでも嗅ぎつけられたら、その餌食になるのは判っている。これは助けてやらなければならないと思った。それにしても産気のついた者を伴れて往くこともできないから、それは此処でお産をさせなければならないが、地べたではもし狼に襲われたときに困る、と彼は考えながら四辺に眼をやっていると、直ぐ近くに檜があって、それが一丈ばかりの処から数多の枝が出て、その間に二三人の人が坐っても好いようになっているのを見つけた。