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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
女房と婢の間にいた女はふと思いだした。
「それは、さっきの蠅でしょうか」
「そうかも知れんよ、今比そんなに蠅がおるものか」と、女房が云った。
「店におった奴も、それかも判らない」と、云って九兵衛が畳の上に眼をやるともう蠅はいなかった。「ああ、もう、何処かへ往ったな」
二時時分になって九兵衛が帳場で茶を飲んでいると、蠅の影がまた見えた。蠅は帳場格子の上から机の上におりた。それと前後して表座敷で親類の老人と話していた女房の耳元でも、蠅の羽音が微にした。
夜になって親子三人が行灯の下で話していた。九兵衛が何か云いながら見るともなしに見ると、行灯の障子に墨をつけたように一疋の蠅がとまっていた。
「またおる」と、九兵衛は不吉な物を見つけたように眼をった。
「蠅」と、女房も顔を持って往った。「さっきの蠅でしょうか、あれからお爺さんと話している時にも、耳のはたを飛びましたよ」
「俺の処にも、おやつに茶を喫んでた時におったよ」
「おんなじ蠅でしょうか、潰しましょうか」
「潰さずに撮んで外へ捨てよう」と、九兵衛は両の掌を持って往って、紙の上にじっとしている蠅を中へすくい込んだ。