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しゅんせつのでわじのみっか

春雪の出羽路の三日

喜田 貞吉

「社会史研究 第九巻第六号」1923(大正12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,521 字 · 33 页

青空文庫

もしその融けかけた雪が少しでも崩れたなら、たちまち箱雪車もろとも川の中へ墜落する訳で、時々ヒヤヒヤさせられる。翌二十九日、三浦祠官は朝早くから金沢へ先発せられ、自分は深沢君とともに、またも箱雪車に送られて、後三年の役の遺蹟たる金沢柵址踏査に出かけた。この間約一里。春霞が深くこめて数町先は見えず、眼界の及ぶところことごとく純白な雪の郊野で、シベリヤの氷原もかくやと思われるくらい、その中を薄ボンヤリと、右往左往に橇が通う。雪国の景色を初めて見る自分には、これも日本のうちかと、言い知れぬ異様の感に打たれたことであった。しかもこれが三月も末の二十九日で、自分の郷里の阿波などでは、疾くに普通の桜は散りかけて、八重桜満開の時期なのだから驚く。

自分らの橇の通っている下はことごとく水田で、道路も用水路も構わず、好きな所を好きな方向に、勝手に道を作ってその上を進んで行くのだ。農夫は朝早くから橇で肥料を運搬して、各自自分の地面と思う所へそれを分配している。間違えて他人の地面に置いて行くことはなかろうかと、他目には案じられるが、遠方の立木や山などの見通しで見当をつけて、自分の地面を間違えるようなことは決してないそうな。