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しょうわよねんのぶんだんのがいかん

昭和四年の文壇の概観

平林 初之輔

「新潮 第二六年第一二号」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,557 字 · 29 页

青空文庫

「時の敗者」等を発表した十一谷義三郎もまた、その質実な、根気のよい、手堅い作風において、滔々たる即興的小説の型を破った作家である。彼の創作態度は、そのシリアスな点において、島崎藤村とともに推賞すべきものがある。だが彼の創作態度は研究的というよりもむしろ穿鑿的といった方がよい程度な点が多く、そのために、折角の努力が、本質的なものに向かわないで末枝的なものに向かっている場合が少なくない。風俗史家的な考証癖と、文章における一種のペダントリー〔衒学〕とが相まって、「調べた」作品である割合に、氏の作品は効果が希薄である。もっと自由な空気を流入させ、もっと大胆に奔放に社会と人生との根本的なものへ突入してゆかねば、氏の小説は、ついに書斎の中でこしらえた小説におわるであろう。

「風呂と銀行」を発端とする長編の一部分をひきつづき『改造』誌上に発表した横光利一もまた、今年度において特記すべき作家であろう。彼もまた、身辺小説を揚棄して、客観的な世界に眼をむけたという点において、また、創作態度がなおざりでなく、真撃であるという点において、島崎、十一谷両氏と共通なものをもっている。