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ばんしゅう
晩秋
山本 周五郎
「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页
一
一
旦那さまがお呼びだからお居間へ伺うように、そう云われたとき都留はすぐ「これは並の御用ではないな」と思った。この中村家にひきとられて二年あまりになるが、直に主人に呼ばれるようなことはかつてなかったからである。居間へゆくと惣兵衛は手紙を書いていて、「暫く待て」と云った、都留は端近に坐って待った。風邪をひいているのだろう、老人はしきりに筆を措いては水ばなをかんだ、肩つきがどことなく気負ってみえるし、鬢のあたりのほつれ毛が、手の動くにつれて微かにふるえるさまも、なんとなく心昂ぶっているように思えた。……やがて書き終った手紙をくるくると巻いて封をし、こちらへ向き直った惣兵衛は、「花蔵院の外記殿の屋敷を知っているか」と訊ねた。
「はい、存じております」
「今からこの手紙を持っていって貰うのだが、たぶん暫く向うにとどまることになるだろうと思う、嵩ばる物はあとから届けるとして、さし当り必要な品はまとめてゆくがよい」
「そう致しますとわたくし……」
「江戸からさる人がお預けになって来る、その人の身のまわりの世話をして貰うのだ」惣兵衛はじっと都留の眼をもとめた、「……その人物は御政治むきに私曲があったというお疑いで、いまお調べが始まっているため、極秘で国許へ送られて来る。