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ばんしゅう

晩秋

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页

青空文庫

五

紙を繰る音と、低い囁きごえが起こり、――その合間あいまに鈴木主馬の昂奮した声が聞えた、「わたくしには承服できません」とか、「これはあまりに過酷です」とか、「こんな事実はありません」などという言葉が聞きとれた。

十時になったとき珍しく鈴が鳴り、「茶を淹れてまいれ」と命ぜられた。都留は茶菓を運びながら、それとなくその座のようすを見た。客たちの前には堆高い書類がとりひろげてあった、それは主計が此の家へ来て以来、夜を日に継いで書き続けたあの記録らしかった。

「やっぱりそうだ」自分の部屋へ戻ると、都留は怒りのために色を変えながらそう呟いた、「……書いていたのは自分を裁く調書だったのだ、あの調書を元にして御裁きがおこなわれるのだ」

五

午前一時の鐘を聞き、二時を聞いた。奥の間の人々は夜食もとらなかった、そしてもう間もなく三時だろうと思われる頃、「いや、わたくしは反対です」という鈴木主馬の高声が聞えてきた、「……このたびの御吟味は藩政革新ということを明確にするのが御趣意で、罪人を出すのが目的ではないと信じます、このような調書を元にしての御裁きはでき兼ねます、少なくともこの主馬にはできません」