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ばんしゅう
晩秋
山本 周五郎
「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页
むろん外記殿へ預けられることも関係者のほかには知らされていない、それで特にそなたに世話をたのむのだが、……こう申せば利発なそなたには察しがつくかも知れぬ、さる人とは万松寺さまの御用人だった進藤主計どのだ」
都留はそのとき膝の上に重ねていた手をぎゅっと拳に握りしめた。心でなにか思うよりさきに肉躰が反応を示したのである。都留はけんめいに自分を抑えながら惣兵衛の顔を見あげた。
「そなたを世話びとに選んだ意味は改めて云うまでもあるまい、但し、主計どのは今お上の御不審のかかっている躯だ、そこをよく考えて、軽はずみなことをせぬように」
都留は手紙を受取って座を立った。
身のまわりの物をまとめた荷を下僕に負わせて、花蔵院というところにある水野外記の別墅へ着いたのはその日の昏れがただった。そこは岡崎城下の外壕をさらに北へぬけ出た郊外に在り、なだらかな丘や雑木林が広びろと続き、芒の生茂った草原の間にささやかな野川の流れなどのある、鄙びた閑寂な地であった。屋敷は板塀をめぐらせてあるが、庭境の一部は野茨を這いからませた竹垣で、そこからすぐにうちわたした草原となり、そのさきは遠く段丘と森とが起伏して六所山の麓へと登る大きい展望がひらけていた。