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ばんしゅう
晩秋
山本 周五郎
「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页
坐っている膝からすぐ右側に方三尺ばかりの木蓋をした切炉がある。厚みのある、重そうな、よく拭きこんだその木蓋を見ながら、都留はふと此の室が自分の起き臥しする処になるのではないかと思った。やや暫くして中年の背丈の高い武士がはいって来た。むりにひき結んでいるような口つきに特徴のある、頬骨の尖った、冷たい感じのする顔つきだった。
「そなたが都留というのだな」彼は惣兵衛からの手紙を読み終ると、こちらをじっと見まもりながら云った、「……そなたの身の上はかねて惣兵衛から聞いている、こんどの事に就いては自分からはなにも申すことはないが、ただこれだけは注意して置く、今後この屋敷の中でおこなわれる事は、すべて聞いてもならず、見てもならない、いいか、眼も耳も口も無くした心でいなければならぬ、それからもう一つ、私の情に駆られて軽挙をしてはいかん、これだけを固く申しわたして置く、それから」と、彼は手紙を巻き納めながらいった、「……自分はこの家のあるじ外記だ」
他の事は老女から然るべく教えるであろう、そう云って去ってゆく外記の足音を聞きながら、――あれが新しい岡崎の柱石といわれる外記さまか、そう思って都留はにわかに汗の湧くような気持に襲われた。