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げつめい
月明
豊島 与志雄
「新小説」1921(大正10)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页
八
ばたばたと羽ばたきをして小刻みにちょっとあたりを見廻して、それから一枝ずつ、高い梢の方へ飛び上っていった。ごーっと鳴る松風の音がその後を蔽いかくした。
頼りない淋しい夕方だった。
「なぜかは知らねど心迷い、むかしの伝説のいとど身にしむ……。」
いつのまにか聞き覚えた歌の節が、一人でに口から出ようとするのを、彼はじっと抑えつけた。彼女の歌を歌うのが、心のうちに憚られるような気持ちだった。
見えないほどの空高くに、松の梢越しのまだ夕明りの空に、星が一つきらめいてるらしかった。「恋せよ、恋せよ!」と何かが囁く。「恋すな、恋すな!」とまた囁く。
それに耳を澄すと、「凡て空なり!」初秋の風の音がごーっと鳴っていた。
八
「今じきにいくから、遠くへ行かないで待ってて頂戴。」
こまこました道具を明日の出発のために片附けていた姉は、そう云いながらもやはりゆっくり構え込んでいた。はいりきれないほどの品物をどうにかつめ込もうと、バスケットの側にいつまでもくっついてる伯母の方は、姉よりも更に気長だった。
「ほんとにいい月よ。」
俊子の言葉をきっかけに、彼もぷいと外に飛び出した。