轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

姉はいつまでも来なかった。

「海まで行ってみましょうか。」

その顔を何気なく見上げると、白々と月の光りに輝らされた中に、底光る黒目と赤い唇とが、まざまざと浮出して見えた。

彼は身体が堅くなるのを覚えた。静かな夜、月の光りの中に、彼女と二人で立ってることが、息苦しくて不安だった。余りに目近く彼女の側に居ることが、しみじみと胸にこたえて、身の動きが取れなかった。それを、黙ったまま歌も歌わないで、彼から追っつかれるのを待つかのように、ゆっくりと足を運んでる彼女の後ろ姿が、ぐいぐい引きつけていった。黒い髪のはじから覗いてる耳朶の下に、四五筋のほつれ毛がそよいでいた。

松林の影にはいった時、波音が俄に高く聞えてきた。足下の草は露に濡れていたが、松の梢はかさかさ乾いていそうな夜だった。

暫く行くと、その向うの左手に、四五本の雑木が、こんもり蹲っていた。彼ははっとしたが、足を止めるまもなく、先日の提灯はもう無くなってることを知って安堵した。

と同時に、ぱっと明るくなった。薄暗い海を背景にして、なだらかな砂浜が浮き上っていた。見渡す限り広々として何もない、冴え返った月の光りが、降り濺ぐように一面に落ちている。