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あさがおぞうし
朝顔草紙
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页
信太郎はこれが先刻の琴の主だなと思って見た。娘は盲いていた。
「信太郎、――」
監物が静かに云って、「これは文絵の従妹に当る者で小雪と云う。見る通り眼が不自由だが、文絵とは姉妹のように育って来た。彼女のことなら何でも知って居るゆえ、話し相手になってやって呉れ」
「は、それは拙者こそお願い致します」
言葉少なに挨拶を交して箸を執った。娘のそばには乳母とも見える老女が附いて、まめまめしく介添をしてやっていた。と……食事半ばに若い家士が小走りに来て、
「――申上げます」と襖際に手をつき、「唯今、横目方より急の書状を持参仕りました」
そう云って文筥を差出した。
「直に御披見下さるようと……」「うむ」
監物は箸を措いて向き直る、文筥を明けて書状を繰り披げた。文面は一句、走り書きで、
(御槍奉行、柴野靱負殿儀、昨夜雨中宗念寺畔に於て暗殺。只今死体発見仕り候、即刻御登城を……)
みなまで読まず、
「しまった」と云って監物は起つ、
「急の御用が出来した、わしは直ぐ登城するゆえ、信太郎の接待は小雪に頼むぞ」
そう云い捨てて愴惶と去って行った。
×
風渡る庭の翠を前に、信太郎と小雪は相対して座っていた。