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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

四

振返って見ると小雪の淋しい顔が、じっと此方を見送っていた。

四

烈風が雨雲を北へ北へと吹き払っていた。

さっきひと降り来たあとで、道の上には溜り水がある、丸に剣菱の紋を打った提灯をさきに、神尾采女の下城の行列が、ひたひたと宗念寺の塀外へかかって来た。

采女が反対派の刺客を怖れていた事は、その屋敷構えでも知れるし、供立の様子でもよく分る、実際これまで再三度にわたって不意の襲撃を受けたことがあるのだ。今や情勢は完全に彼の方へ傾いているし、もはや刺客などを怖れる必要のないまでに、彼の勢力は決定的になっていたが、それでも彼は警戒を緩めなかった。

信太郎は革紐の襷をかけ、足拵えを厳重に、然も身軽く、先夜奪い取った槍を小脇にして、じっと機を狙っていたが、采女の駕籠が眼前にさしかかったとき、竹林の中から道へ踏出して、大音に、

「神尾采女、天誅だ」

叫びざま駕籠の中へ一槍入れる。手応えありとみるや、さっと槍を引いて竹林の中へ引返した。殆ど一瞬の出来事である。

「曲者、曲者だ!」「逃がすな!」わっと乱れる供侍たち、「お駕籠を早く、早く行け」

供頭の叫ぶ声がして、徒士二十人は抜きつれながら竹林の中へばらばらと踏込んだ。