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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

当時、足軽の伜で小姓にあがり、そのお側去らずに仕えている神尾采女という者がいた。非常な才人で、主君松平大和守の寵愛を専らにしていたが、二十三歳で御用人に取立てられると急に勢を得て君寵をかさに政治面の事にまで容喙するようになった。――信右衛門は夙くから采女が奸曲の人物であると見ていたので、お側を遠ざけるよう再三にわたって直諫した、それが要するに永の暇になる因だったのである。

安倍の家は祖父の代から大和守に仕えていて、つまり「三代相恩」の主家ではあったが、信右衛門は遂に浜田を見切って浪人し、江戸へ出て数年を過すうち、今の主君堀田山城守に見出されて三百石を賜わり、江戸詰留守役として今日に至ったのである。

「それでは精しく話す要はあるまい」

信右衛門が云った「然し、……父が浜田を退身したのは、武士の本分に欠けていた。真に君家を思うならば諫死をも辞すべきでない、少くとも采女を斬って立退くくらいの覚悟が出来ない筈はなかった。それを……父はまだ若く、客気満々であったため、尽すべき本分を尽さずに来てしまった」

信右衛門は恥ずるように、暫く言葉を切っていたが、再び続けた。