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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

監物は惘然と手を拱いた。……明日こそ城中に采女を斬って自刃しようと、覚悟を決した監物は、信太郎に托すべき数々の事があって、既に遺書も認めてあるのだ。

「一両日延ばす訳にはゆかぬか」「はい、是非これより立たせて頂きたく、実はいま駕籠も申し付けてまいりました。幸い雨もやみました様子、雲間に月も見えまするゆえ、月見ながらの夜道も風流かと存じまする」「――――」監物は黙って机上の鈴を振った、そして若侍が来ると、

「小雪にこれへ参れと云え」と命じた。小雪が乳母に手を曳かれて入って来ると、監物は暗い眼を振向けて、

「信太郎がこれから江戸へ帰るそうだ」「え……」小雪の顔がさっと蒼ざめた。

「突然参上致し、長々とお世話を相掛けました、急に思いたちましたので、これから出立仕りたいと存じます」「それは、……急な、――」「御厄介の御礼も致さず、不本意千万ではござりまするが、幾重にも御容赦下さい」そう云って信太郎は監物の方へ向直り、

「お別れに就てお願いがございます、文絵どのの御位牌を頂戴致しとうございます」「位牌をどうする」「信太郎の妻は文絵どの唯一人、生涯文絵どのの位牌を守って、冥福を祈りたいと存じます」