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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

「――つい先頃であったが、父はある席で浜田の噂を耳にした、それに依ると采女は遂に国老にまで経登り、今や全く藩政の実権を握って、悪政秕策、一藩の民を泣かしているとのことだ。……十五年まえに父が斬っていたら、この禍根は残らなかったに違いない、おまえそう思わぬか」「よく分りました」信太郎は父を見上げて「――斬って来いとおっしゃるのは采女のことでございますね」「父が果さずに来た三代相恩の責を、その方が果すのだ。たやすい事ではないぞ」「――斬って参りましょう」

信太郎は片頬に微笑すら浮べていた。信右衛門はその面を見まもっていたが、

「よし、その眼なら大丈夫やれる、手段は選ばぬから仕止めて来い、――その代りに良い褒美をやる」「では兼光のお差料を」「そうではない、他にあるだろう」

信右衛門はちらと笑った。「浜田へ行くと云えば思い出す筈だがな、分らぬか」「何でございましょう」

小首を傾げたが、直ぐに信太郎はさっと頬を赫くした。その様子を信右衛門は楽しそうに眺めて、「どうだ、分ったであろう!」「――はい」「国家老建部監物の娘文絵どの、おまえとは親同志の約した許嫁だ。