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あさがおぞうし
朝顔草紙
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页
雨はもう小降りになっていたが、吹き始めた風が右手から強く当るので、笠を傾けながらすたすた急いでいると、宗念寺の土塀の尽きたところが竹の疎林になっている、その中から闇を衝いて、
「えいッ」と云う掛け声と共に、いきなり槍をつけた者があった。全く思い設けぬ出来事だった。はっと、反射的に躰をひらいたが、槍は信太郎の雨合羽を縫い、勢い余って左へ二尺も穂尖が出た。殆ど同時にその千段巻を左手で掴む、右手を刀へやったが柄袋が掛けてあった。
――くそっ。
と思うと右へ廻り込みながら、
「何者だ、人違いするな」と叫びざま力任せに槍を引いた。だっとのめって来るやつを逆に、躰を捻りながら、足を払ってぐいと突き戻したから、相手は雨水の中へ顛倒し、槍は信太郎の手に残った。――見るとその時、前後の闇へばらばらと四五人、白刃を閃めかして詰寄る人影がある。
「人違いするな」
信太郎はもう一度叫んだ「拙者は東国から旅をかけて来た者だ、――それとも貴公たちは追剥盗賊の類か」
闇の中から、一人の男が近寄って来た。そして眤と此方を見透すようにしたが、
「みんな退け、人違いだ」と云った。そして音もなく闇の中へ消えて行った。