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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
格子の前で、かすかに震える手から車夫にはらってから、とげとげした声で、
御免
と云った。
内から首を出したのは、思い通りお金であった。
栄蔵は一寸まごついた様に、古ぼけた茶の中折れを頭からつまみ下した。
「おやまあ、これはこれは御珍らしい。
さあ、どうぞ、お上んなすって。
と、栄蔵の手から軽い、すべっとしたカバンを受けとって、
「お前、お待ちかねの方が御出でだよ。
と奥へ怒鳴った。
通された茶の間めいた処に座って、お金が、格子に錠をかけ、はきものの始末をつけて来るまで、周囲の様子を見廻した。
柱でも、鴨居でも、何から何まで、骨細な建て工合で、ガッシリと、黒光りのする家々を見なれた目には、一吹きの大風にも曲って仕舞いそうに思われた。
小道具でも、何んでもが、小綺麗になって、置床には、縁日の露店でならべて居る様な土焼の布袋と、つく薯みたいな山水がかかって居た。
お金は、すっかり片づけて来て、兄の前にぴったりと平ったく座ると、急にあらたまった口調で、無沙汰の詫やら、お節の様子などを尋ねた。
「ほんにねえ、
私も今度の事じゃあ、どんなに苦労したかしれやしないんですよ。