轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
「だって――」
と、恭一は言いよどんで、菓子鉢を見つめていたが、
「これ食べようや。」
と、急に亀の子煎餅をつまんだ。しかし、二人とも、それを口に運ぶというよりは、それに浮き出している模様をぼんやり眺めている、といったふうだった。
「母さん、変じゃあない?」
「どうして?」
「だって、次郎ちゃんが来ても、ちっとも嬉しそうな顔をしていないじゃないか。」
「そうかなあ。」
「次郎ちゃんは、そう思わなかった?」
「…………」
次郎は眼を伏せた。そして、亀の子煎餅を指先で砕いては、鉢におとした。涙がこみあげて来るような気持だったが、彼はやっとそれをこらえた。
「僕、あんな人、きらいさ。」
恭一は吐き出すように言って、急に煎餅をぼりぼり噛み出した。
次郎は、しかし、すぐ恭一に合槌をうつ気にはなれなかった。彼には、何かしら未練があった。さっき立ちがけに見たお芳の眼の表情も思い出されていた。
「じゃあ、恭ちゃんも、可愛がって貰えないの?」
次郎は妙に用心深い眼をしてたずねたが、それには、かなり複雑な気持がこめられていた。恭一が可愛がられていないことは、彼としては安心なことのようにも思えたし、また、それだけお芳の愛が俊三に集中されていることのようにも思えたのである。