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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
画仙紙には、えたいの知れない線や点がべたべたとなすられていた。それが見ているうちに断崖のような形になった。そしてその中程から、長い髯みたようなものが、くねくねと幾筋も飛出して、それがたちまち蘭になった。
蘭を描き終ると、運平老は画筆をおろして、ちょっと腕組をした。それから、今度はべつの筆をとり上げて、絵の右上の余白に一行ほど漢字を書いた。それは恭一にも次郎にもまるで読めない字だった。最後に運平老は「鉄庵居士」と書いて筆を措いたが、この四字だけは、恭一にも次郎にも見覚えがあり、それが運平老の雅号だということも以前からわかっていた。
「どうじゃ、学校の図画とはだいぶ違うじゃろう。」
運平老は、やっと眼鏡をはずして、二人の方に向きなおった。
「学校の図画、あれは形だけのものじゃ。形だけでは、ほんとうの絵にはならん。ほんとうの絵は心で描くものじゃ。心の邪念をはらって絵筆を握る。すると絵筆の先から自然に自分の気持が流れ出る。それがほんとうの絵じゃ。」
「邪念って、何です。」
と、恭一がだしぬけにたずねた。その調子はいかにも真面目だった。
「うむ……」
と、運平老は、ちょっと説明に窮したらしく、その大きな眼玉をぱちくりさしていたが、