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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
この大理石像は、お墓詣りがたび重なるにつれて、いよいよ鮮明になって行った。しかも、不思議なことには、その顔は、彼の記憶に残っている母の顔そのままのものではなかった。それは、もっと美しい、神々しい顔だった。やや伏眼に半眼にひらいた眼つきには、どこかに観音さまを思わせるものさえあった。
次郎は、学校の綴方の時間に、このごろ感じたことを何でもいいから書け、と先生に言われて、「地下に眠る母」という題で、お墓詣りのおりのこうした感じを、そのまま書いて出した。すると、そのつぎの綴方の時間には、先生は、みんなのまえでそれを朗読したあと、黒板の横の壁にピンで貼り出した。題のうえには三重圏が朱で大きく書いてあり、文末には、
「先生も思わず静かな気持に誘いこまれてしまいました。君の孝心がこの名文を書かせたものと思います。」
と記してあった。
次郎は、しかし、先生が朗読をはじめた瞬間、後悔に似た感じに襲われた。ひとりで大事にしまっておいたものを、だしぬけに人に見つかったような気がしてならなかったのである。彼は最初顔をまっかにした。が、朗読が終るころには、むしろ青ざめていた。