轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
彼の涙はすぐとまった。彼は一人で歩きながら、少しも淋しいという気がしなかった。「武士道」――「慈悲」――今日講堂で見たり聞いたりしたそんな言葉が、いつの間にか思い出されていた。そして、「慈悲」という言葉は、もう正木のお祖母さんを思い出させるような、そんなやさしい言葉ではないように思われて来た。
「涙のある人間だけが、すべてを支配することが出来るんじゃ。」
大垣校長の言ったそんな言葉が、今更のように強く彼の胸にひびいて来た。
歩いて行くうちに、山犬や、狐や、三つボタンのいやな顔がひとりでに思い出された。しかし彼はもう、それらをちっとも怖いとは思わなかった。それどころか、彼らのまえに青い顔をして並んでいた新入生達のことを思うと、一種の武者ぶるいみたようなものを総身に感ずるのだった。
家に帰ると、彼は何事もなかったような顔をして、すぐ机のまえに坐った。そして、懐から手帳と蟇口とを出して、それを抽斗にしまいこんだが、つい今朝まで、何かしらまだ気がかりになっていたその蟇口も、もう全く問題ではなくなっていた。
彼の人生は、中学校入学の第一日目において、すでに急激な拡がりを見せていたのである。