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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

「べつに何ともなかったよ。」

「君に、その話、しなかったんか。」

「ううん、ちっとも。……僕も君らの話をきいて、今はじめて知ったんだよ。」

「そうか。そうだと君の弟はいよいよ変った奴だな。」

「本田の手には負えんのじゃないかね。」

「だいいち、弟の方が本田を相手にしていないのだろう。」

みんながどっと笑った。恭一はてれくさそうに苦笑して、顔をふせた。

「冗談はよそう。……どうだい、本田、君の弟ってのは、いったい、物がわかる方なのか、それとも、ただの向こう見ずか。」

そう言って、まじめにたずねたのは、大沢雄二郎という生徒だった。彼は、小学校を出てから三年も町の鉄工場で仂いたあと、ある人に見込まれて中学校にはいることになったので、全校一の年長者だった。どっしりと落ちついて、思いやりがあり、しかも頭がいいので、「親爺」という綽名でみんなに親しまれていた。とりわけ恭一は彼に親しんだ。親しんだというよりは、心から尊敬していたといった方が適当かも知れない。性格はまるでちがっていたが、物の考え方はいつも同じで、しかも世間を知っているだけに、大沢の方にずっと深みがあった。大沢の方でも恭一を真実の弟のように愛した。