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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
ほんの一瞬ではあったが、相手が都合よく彼の方を見ていなかったので、かなりこまかに観察することが出来た。下唇が少し突き出ている。顎の骨も、肉で円味を帯びてはいるが、並はずれて大きい。その唇と顎とが盛んに活動している様子は、次郎の眼にあまり上品には映らなかった。
「たべたくないのかえ。」
お祖母さんがもどかしそうに言った。
「ううん」
「じゃあ、おたべよ。」
次郎はやっと丸芳露を口にもって行った。しかし、たべだすと、またたくうちに平らげてしまった。
「もう一つあげましょうね。」
お芳が、丸芳露を箸ではさみながら言った。次郎は返事をしなかったが、差し出されると、今度はすぐ受取って、ぱくぱく食べ出した。
お祖母さんとお芳とがいっしょに笑い出した。
「さあ、もうきまり悪くなんかなくなったんだろう。もっとそばにおより。」
お祖母さんが火鉢を押し出すようにして言った。
次郎の気持は、しかし、まだちっとも落ちついてはいなかった。彼は、一刻も早く部屋を出て行きたいと思った。
「僕、宿題があるんだけれど――」
彼はとうとうまた嘘を言った。が、この時は不思議に気がとがめなかった。