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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

そうして、もう一度葉書に眼をとおした。

「そこで、次郎君のその葉書じゃが――」

と、運平老も、やっと葉書のことを思い出したらしく、

「わしは、次郎君に、母さんと呼ぶのを、剣道で仕込んでみたいと思いつきましてな。」

「へえ? 剣道で?」

「そうです、剣道で。……こいつは、自分ながら妙案じゃと思いましたわい。」

運平老は、そう言って、ひとりで愉快そうに笑った。俊亮は、まるで狐にでもつままれたような顔をしている。

「次郎君なかなか元気者でしてな、竹刀を握らせると、もう夢中になって打込んでまいりましたわい。ところで、これははじめのうち誰でもそうじゃが、うまく懸声が出ない。出ても気合がかからない。そこをうまく利用しましてな、口を大きくあけてかあっ、かあっと怒鳴ると気合がかかる、と言ってやりましたのじゃ。」

「へえ――?」

「すると、次郎君、言われたとおりに、かあっ、かあっと叫んで打込んで来る。そのかあっという声がうまく出るたびに、わしが、わざとわしの面を打たせてやりますと、次郎君いよいよ調子づきましてな。」

「へえ――」

「次郎君は案外素直な子供ですぞ。」

俊亮は、眼をぱちくりさせた。