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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
」
「うん。――もうお祖母さんなんか、へっちゃらだい。一人ぽっちにしてやらあ。」
次郎はすっかり調子にのっていた。恭一には、しかし、次郎のそうした言葉が、あまり愉快でなかった。で、彼は、握っていた次郎の手をその胸の上で神経的にゆさぶりながら、言った。
「そんなこと言うの、よせよ。僕ら、ただ三人で仲よくすれはいいんだよ。」
次郎は真暗な中で思わず眉根をよせ、五体をちぢめた。温い夜具をとおして、何か冷やりとするものが、彼の心臓のあたりに落ちて来たような感じだったのである。
彼はしばらく自分の気持を始末しかねていた。むろん適当な言葉も見つからなかった。お座なりをいう気には一層なれなかった。
と、だしぬけに、そして、ちょうど銀幕に暗い夜の場面が映し出されたかのように、襖がすうっと開いて、梯子段の下からさしているほのかな光線の中に、人影が浮いた。
恭一も次郎も、一瞬息をつめて、その人影を凝視した。
人影はせかせかと、しかし、足もとに用心しながら部屋にはいって来た。そして、二人の机のそばまでやって来ると、しばらくぐずついていたが、やがて電燈がぱっとともった。二人とも、人影を見た瞬間、てっきりお祖母さんだと思ったが、果してそうだったのである。