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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
自分はさらしものにはなりたくない。そういった気持ちだったのである。
かれは、すぐ、机のひきだしから一枚の新しい葉書をとり出して、恭一あての返事を書いた。ペン先にやけに力がこもった。
「はがき見た。何のことやらわからぬ。沈黙はむろん結構。的なきに矢を放つようなことを君のほうでやりさえしなければ、僕ははじめから沈黙しているのだ。前便再読をのぞむ。これだけいって、いよいよ沈黙しよう。」
かれはつめたく微笑しながらペンをおいた。しかし、それと同時にかれの眼をひいたものがあった。それは机の上に開いたままになっていた「歎異抄」だった。
かれは、しばらく、今書いたばかりの葉書と「歎異抄」とを見くらべていたが、やにわにその葉書をわしづかみにし、もみくちゃにしてにぎりしめ、そして、にぎりしめたこぶしの上に顔を突っ伏せた。
こうして、この日も、次郎にとっては、決して昨日より楽な日だったとは言えなかったのである。
翌二十六日は火曜日だった。雪は昨夜もふりつづいたらしく、赤松がずっしりと重く枝をたれており、くぬぎ林が、雪だるまをならべたようにまるまっていた。
この数日は、門から玄関までの道の雪をかくことが、塾生たちの朝食後の仕事になっていたが、今日は、まだかき終わらないうちに、外来講師の小川先生が、ゴム長をはいてやって来た。