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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页

青空文庫

城からようすを視に来る役人に、従者の欲しいこと、食糧の届かないこと、また刺客のことなど、たびたび訴えてみた。すると役人は、自分たちはすべて江戸からの申しつけどおりにしているが、貴方のおこないがあまりに粗暴で、従者がみな逃げだしてしまうのである、食糧はきちんと届いている筈であると答え、また刺客の件についてはつぎのように云った。

――そんなことは有ろうとも思えないが、もし事実とすれば梶田一派のまわし者であろう、貴方のお命をちぢめて、継嗣問題の密謀をやみに葬むるつもりではないか。

成信はやんぬるかなと思った。

――餓死か暗殺か、もう運命はきまった。

じたばたするだけむだである。こう覚悟をきめ、すべてを投げ出した気持で、米が一粒もなくなると共に、そこで飢え死ぬつもりで寝ていたのであった。

こういう状態のところへ賊がはいった。おそらく他国から来たもので、なんにも事情を知らないのであろうが、選りにえってこんなところへはいるというのは皮肉すぎる。――おれを素人だと思うかなどと威張ったが、おそらくそのとおりに違いない。ひとがらも悪人にはみえないし、自分の銭で米味噌を買い、煮炊きをして食わせさえした。