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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页
十一
彼の相貌はひきしまり、あたりを見廻す眼には強い意志のいろがあらわれた。
「――伝九、……おれは帰るよ」
口のなかでそっと呟やき、風のわたる晴れあがった空へと、かなしげに眼をやった。
伝九郎が帰って来たとき、成信は竈で汁を拵えていた。頭から灰まみれで、煙にまかれたのだろう、眼のまわりを黒く汚していた。伝九郎はびっくりし、とんで来て、彼の手から火吹き竹をひったくった。
「なにをこんな、おめえがなにもこんなことをするこたあねえじゃねえか、冗談じゃねえ、お天気が変らあ」
「――今日はおれがするよ、わけがあるんだ」
「わけがあったっておめえに出来るこっちあねえ、おれが代るから向うへいって」
「――いや、もう済んだんだ」
成信は鍋の蓋をとり、笊にあげてあった刻み大根を入れた。
「――飯も炊けたし、魚も焼いてある」
「こいつあびっくり仰天だ、冗談じあねえ、せっかく続いていた日和が、これできっとおじゃんになるぜ」
「――まあ足を洗え、そして飯にしよう」
十一
食膳に向うと伝九郎はもういちど驚ろいた。
「おめえこれあ、これあどうして、ちゃんとしたもんじあねえか」
「――ちゃんとしたもの、とは、なにがだ」