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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页
三
――二十年以上も人が住まず、もちろん手入れなどもながくしないので、樹という樹は勝手なほうへ伸びたいだけ伸び、お互いの枝と枝、葉と葉をさし交わし重ねあうところへ、藪枯らしや藤や葛などがむやみに絡みついているから、どれが松どれが梅とも差別がつかなかった。……もちろん見るかぎり夏草の繁みで、地面のみえるところはごく僅かしかない。そのひとところ、ちょうど厨口の外に当るところに井戸があり、その四、五間さきには山水を集めたほそい流れが、夏でも指のこごえるほど冷たい水を湛えて屋敷の内をよこぎっていた。
顔を洗って戻ると、夜具があげてあり、広縁のほうへ寄って男が膳ごしらえをしている、大きな鍋からはこうばしい味噌汁の匂いがひろがり、蓋をとった釜から飯の湯気が立っていた。
「顔を洗ったか、じあここへ坐んねえ」
男はこう云って膳のそっちを指さした。
三
坐って箸をとったものの、成信はちょっとそこで躊躇した。つまらないようなはなしだが、渇しても盗泉の水をのまずということが頭にうかんだのである。
「どうしたんだ、食わねえのか」
「――いや、食わなくは、ないが」
「じあさっさとやんねえな、ちっとも遠慮するこたあねえんだ、ひもじいときあお互いさまよ、にんげん三日も食わずにいて堪るもんか」