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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页
――彼は江戸の下町の生れで、家はちょっとした乾物屋だった。父親はおとなしい好人物であったが、酒を飲むとひとが変り、あるだけの金を持ってとびだしたきり、五日も六日も帰らないようなことがしばしばあった。結局は店を飲みつぶしてしまい、親子三人で長屋へひっこむと、まもなく父親は急死した。急死といっても酔って川へおちて死んだのである。
「おらあそれで七つの年から蜆を売りに出たもんだ」
母親が後夫をむかえ、彼は日本橋のほうの海産物の問屋へ小僧にいった。義理の父というひとがまたずぬけた酒のみで、母親はずいぶん苦労したらしい、そのためか三年ばかりして亡くなった。
「だから十三でおらあみなしごになったわけだ、本当はみなしごなんだが残ったその義理のおやじてえのがいる、こいつがおれの厄病神になりあがった」
新三というその男は、妻に死なれてから三日にあげず店へ来た。伝九郎をよびだして小遣い銭をねだる、いつもひどく酔っていて、大きな声をあげたり、ときには暴れたりした。なにかの職人だということだが、もうまえから仕事などはしないらしい。博奕うちにでもなっているのか、風態も悪いしいやな人相だった。