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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页

青空文庫

七

もちろん彼はその親方とは縁が切れた。一方では妻の吝嗇と嘘つきと口やかましいのにあいそをつかしていた、がみがみと云いたいほうだいのことを云って、それこそ三杯の飯を二杯に詰めて、そうして自分はへそくりを溜めるというふうだった。――もう顔を見るのも声を聞くのもいやらしくなったので、古石場の帳場がつぶれるとすぐ、彼は江戸を逃げだした。

七

「この土地へ来るまでにあずいぶんほうぼう渡り歩いたが、どこにもおちつく場所はなかった、世間はせちがれえし、にんげんは猜るくて不人情で、おらあ小股をすくわれたり陥し穴へつきおとされたり、ひでえめにあいどおしだった、――さすがのおれも業が煮えて、やけっぱちになって、そうして、……ええくそ、そっちがそうならこっちもと思って――だが智恵のねえやつはしようがねえ、泥棒にへえったのがこの化物屋敷だよ、……へっ、まったくのところうまく出来てやがる」

話しはごくとびとびで前後がとり違ったり、同じことをなんども繰り返したりした。そのうえ成信には理解のつかないところがたくさんある、樽ひろいとか蜆売りとか、そのほか日傭とりの暮しなどは殆んどわからなかった。