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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页
――もうやみやみと討たれはしないぞ。
こう思っていると、前栽をまわって五人の武士がはいって来た。なかに一人、塗笠を冠った者がいて、その者だけがそこで笠をぬぎ、刀を侍者に渡して、こちらへ進んで来た。他の四人はその場に膝をついて控えたが、鮫島平馬の顔もそのなかにみえた。
こちらへ来たのは榁久左衛門という者だった。江戸の上屋敷でたびたび会ったことがある、中老格で、慥かずっと馬廻り支配をしていた筈だ。年は四十三、四、柳生流の達者だと聞いたように思うが、――今みるとたいそう痩せて、左右の鬢が白くなったし、日にやけて、とがったような顔に、おちくぼんだ眼だけが強い光りを帯びていた。
「おみ忘れでございましょうか、榁久左衛門にございます」
縁さきに片膝をついて彼はこう云った。そうして、頭を下げたまま、成信にながい辛労をさせたことを詫び、城へ迎えるために来たこと、詳しい事情は城へいってから申しあげよう、御乗馬を曳いて来てあるから、すぐしたくをしてお立ち下さるようにと云った。
「――おれに構うな、平馬にそう申した筈だ」
成信は正坐して静かにそう答えた。
「――城へはゆかぬ、いやだ」