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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页
十
「――それでおれが城へ帰ると思うのだな」
成信は冷やかな、しかし強い調子でこう云った。
「――おれはいやだ、もうおれに構うな、おまえたちの傀儡になるのはもうごめんだ、おれは人間らしく生きることを知った、おれは人間らしく生きる」
「その仰せは覚悟のうえでまいりました」
久左衛門はこう云って静かにこちらを見あげた。
十
「おぼしめしどおり市井のひととなり、御意のままにお暮しなされば、御身おひとつなんのお心づかいもなく、無事安穏におすごしあそばすことができましょう、しかしそれだけでようございましょうか、御自分だけ気まま安楽におすごしあそばせば、他のことはどうなろうと構わぬ、そうお思いなされますか」
久左衛門の眼はきらきらと光った。
「ただいまそのほうどもの傀儡と仰せられましたが、このたびの御継嗣問題では三名の者が切腹しております、梶田どのをはじめ同志の者ども、みないのちをなげだし、肝胆を砕いて奔走いたしました、――こんにちまでの若殿のながい御艱難は、申すもおそれおおいしだいですが、われらもまた死ぬ覚悟でやってまいったのです、……滝沢どの一党が兵部さま御相続をしいましたのは、おそれながら御瘋疾にわたらせらるるを幸い、おのれの権勢をほしいままにし、専制、事をおこなう手段でございました」