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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

他に手の打ちようもないし……」

しかしそれから一箇月して、加納から手紙が届いた。養子に行って、姓が変っている。住所は千葉で、

『偶然の機会にその新聞を近頃読んだが、どんな用件で探していられるのですか』

と書いてあった。丁度その翌日、私は千葉に行く用事があったので、夕方その住所の方に廻ってみた。するとそこは小さな舟宿であった。案内を乞うと、女房らしい女が出て、今海に出ているが、もう帰って来る筈だと言う。事実三十分も経たない中に、ポンポンとエンジンの音をさせて、釣舟が戻って来た。日焼けした船頭が降りて舟をつなぐ。それが加納であった。

「ああ。あんたですかい」

加納は鉢巻を取った。

「実はうちではあの新聞を取ってないんでね。お客さんが置いて行った古新聞を、何となく読んでいると、あっしの名が出てるじゃないか。びっくりしましたよ」

加納は栄介よりもずっと老けて見えた。やはり毎日潮風に当っていると、皮膚が荒れるのだろう。

「どんな用事で、あっしを探すんだね?」

「実は僕の友人に矢木栄介というのがいて――」

「ああ。あの矢木君の兄さんだね。手紙を出したことがあるよ」

そこで私はかんたんに栄介の気持を説明した。