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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

五

なぜなら幸太郎の言い分は、福次郎の家で通らないことはほとんどなかったのだから。

その幸太郎の態度に、栄介はかすかな憎しみとおそれを感じた。栄介は黙々として御馳走のスキヤキを口に放り込んでばかりいた。

五

あのギプスを見てから二十日ぐらい経って栄介からハガキが来た。頼みたいことがあるから来て呉れ、というかんたんな文面だ。三日目に私は彼を訪れた。縁側のキャンバス製の寝椅子に、栄介はながながと背を凭たせ、本を読んでいた。

「もう背中はいいのかい?」

丸椅子に腰をおろしながら、私は訊ねた。

「うん。ほとんどいい。あと十五日も経てば、学校に出ようと思っている」

二十日前にくらべると血色も良くなり、無精※(「髟/(冂<はみ出た横棒二本)」、第4水準2-93-20)も剃って、身ぎれいになっている。ただ頭髪が伸び過ぎて、後頭部の裾毛がもじゃもじゃと襟からはみ出していた。私の視線に気付くと、彼はうるさそうにそこらを撫で廻した。

「床屋にも行こうと思うんだがね」

彼は弁解がましく言った。

「まだあの床屋の椅子に、一時間辛抱する決心がつかないんだ。背中が――」

「僕に刈って呉れと言うんじゃあるまいね」