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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
「もう来ないのかなと、思っていたところだよ」
「僕らはどうも早起きがにが手でね」
そして私は栄介を紹介した。加納はしばらく栄介の顔を見詰めていた。
「ああ。やっぱり似ていられる」
加納はうめくように言った。
「なるほど。矢木軍曹が生きていれば、今のあんたみたいな顔になるんだな。眼と鼻がそっくりだ」
「見分けがつかないと言うほどじゃないが――」
私が説明した。
「若い時はほんとによく似ていた」
「あっしも昔は若うござんしたよ」
加納は意味のないことを口走った。栄介の顔から城介の若い頃を思い出し、そして自分の若い時分を思い出したのだろう。すぐ加納は気がついたらしく、あわててつけ足した。
「いや。誰だって昔は、若かった」
舟はすでに用意がととのい、釣道具や餌も運び入れられていた。私たちは靴を脱ぎ、藁草履にはきかえた。石段を降りて、釣舟に乗った。小さな釣舟だけれど、三人だけなので、ゆったりしている。
「風もないし、いい釣日和だね」
エンジンの具合を調節している加納に私は、話しかけた。
「もっとも今日は魚釣りが目的じゃないけどね」
「まあ沖に出て、ゆっくり話しましょう」
エンジンが音を立てて、舟が動き始めた。