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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
八
栄介はもの珍しそうに、空を仰いだり、波のしぶきを眺めたりしていた。橋を二つくぐり抜け、舟は広い湾に出た。
八
「え? パビアト?」
栄介は反問した。
「ええ。自分たちはそう呼んでたね」
エンジンをとめ、艫から餌箱を胴の間に廻しながら、加納は言った。餌箱の中には、泥にまみれたゴカイが、びくびく動いている。
「パビナールアトロピンを略して、そう言ってたもんです」
「パビナールと言うと――」
栄介は海面を眺めながら、やがて言った。
「たしか麻薬だったね?」
ウィークデイなので、釣舟の数はすくなかった。沖に出ると、やはり微風があって、小波がひたひたと舷をたたいた。
「ケシからとった阿片の――」
「麻薬は皆その系統ですよ。パビナールもモルヒネも」
加納は針にゴカイをつけた。栄介もおもむろに、それにならった。ゴカイは身をくねらせながら、海へ沈んで行った。
「どうして城介はパビナール中毒になったんだろう?」
「あっしにもよく判らないけれど、彼には喘息の気がありましたね。その発作をおさえるために、打ち始めたんだと思う。なにしろあちらは寒暖の差が激しくて、空気が乾いてるもんだから――」