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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

「憂欝だっただろうねえ」

「いや。城介君自身はそう憂欝そうじゃなかった。足が遅いのは生れつきだから仕方がねえや、と笑ってたよ。内心はどうか知らないが、朗らかな男で、同年兵からは人気がありました。何かことがあると、矢木、矢木とたよりにされてさ。人徳だね」

「性質温良か」

「そうも言えるけれど、やる時は思い切ったことをやったよ。他人には真似の出来ないような不敵なことをね。たとえば土塀を乗り越えてパイチュウを買いに行くとか、あっしらはそれを密輸と称してたがね、無検閲の手紙を民間人に頼んで投函してもらうとかさ。ばれるとたいへんなことだ」

「ああ。そう言えば、僕も時々、検閲の印のないのをもらったよ。うちに三、四通しまってあるけれど――」

栄介は視線を宙に浮かせた。

「死体の爪が一寸五分ぐらいは伸びる、という奇抜なやつもあった」

「ああ。それは自分も覚えています」

加納は膝をぽんとたたいた。

「あれは初年兵教育の最後の演習の時だった。死体じゃなく、腕ですよ。しかも女の――」

城介たちは斥候として、月明の河床道を歩いていた。砂漠は歩きづらいので、行軍にしても斥候にしても、出来るだけ河床道を利用する。