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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

それに危篤というのは、もう死んだという報せに違いない」

彼は五分間ほど考え、それから寝床にもぐり込んだ。

翌朝眼が覚めて、枕もとの電報をも一度読み直した。宿酔で頭がずきずきと痛んだ。昨夜の映画のことを思い出した。

「人生は四十二から始まろうと言うのに、おやじは――」

そう思った時、彼は突然涙が噴き出そうな気分になり、あわてて洗面所に走り、顔をごしごしと洗った。食慾はなかった。彼は朝食も取らず、下宿を飛び出して、東京駅に向った。

汽車が下関に近づく頃、へんな男が彼の隣の席に腰をおろした。横柄な口調で話しかけた。

「今頃どこに行くのかね?」

その口調で、私服の特高だとすぐに判った。調べられた経験が何度かあったからだ。

「郷里に帰るんです」

荷物も持たないし、帰省にしては時期外れである。特高はそこに不審を持ったらしい。父親が危篤だと説明しても、なかなか信用しなかった。危篤であるとはどうして判ったのか、と食い下る。

「電報が来たんです」

「その電報を見せて呉れ」

「下宿に置いて来ました」

「ウソだろう」

その私服の説によると、危篤だの死亡の報せがあると、人間は無意識裡(?)にその電報をポケットに入れて、帰郷するものだとのことであった。