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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

「でも、持たないものは仕様がないじゃないですか」

栄介はいらいらしながら言った。

「おやじが死んだのは事実だから、ウソと思うなら、家にでも下宿にでも問い合わせて下さい」

「死んだ?」

私服は栄介をにらみつけた。

「さっきは危篤と言ったじゃないか」

栄介はぐっと詰った。それから私服はいろいろと、交友関係や経歴など、下関につくまでの一時間ばかり、根掘り葉掘り問いただした。下関でやっと彼は不快な訊問から解放された。

「いやしげな顔をしてたな。あいつ」

連絡船の上から、遠ざかって行く下関市を眺めながら、栄介はあちこち視線を動かしていた。城介と別れて、道を間違えて出た暗い海岸は、どのあたりだろう。ほとんど見当がつかなかった。

「おやじのこと、城介に知らせるのはつらいな」

彼はふっとそんなことを考えながら、下関から眼を離し、船室に入って行った。疲労が重く肩にのしかかって来た。

危篤という電報は、やはり本当であった。あの時福次郎はまだ危篤状態にあったのだ。栄介が家に到着する十時間前に、福次郎は呼吸を引き取っていた。

「何でこんなに遅れたのだ!」

玄関で靴を脱ごうとした時、奥から幸太郎が出て来て、怒鳴りつけた。