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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
彼は頑固に自分に閉じこもり、あるいはふてくされた態度で、無言で聞き流していた。
やがて独りになり、彼はふかぶかと布団の中にもぐり込んだ。瞼の裡に暗い眼花が乱れ散った。その時、突如として彼の胸に、福次郎の死が実感として押しよせて来た。彼はうめいた。
「おやじはもう死んだのだ」
栄介は海老のように身体を曲げ、声を忍ばせて泣いた。
翌朝、彼は幸太郎の店にあやまりに行った。店先には海産物のにおいがただよい、木箱や縄が散乱し、店の者が忙しげに動き廻っている。戦争のために、受注や発送が多くなったのだ。栄介は店の横のくぐり戸を入り、母屋の玄関に立って案内を乞うた。
やがて幸太郎が出て来た。朝酒を飲んだらしく、顔色がてらてらと赤かった。上れ、とは言わず、上り框につっ立ったまま、鋭い眼で栄介を見おろした。
「何だ。何の用事だ?」
「昨夜のことは、僕が悪かったと思います」
栄介は帽子をとって頭を下げた。
「疲れている上に酔っぱらって、無礼なことを言ってすみません」
幸太郎はしばらく返事をしなかった。やがて口を開いた。
「あやまりに来たのは、君の意志か、それともおフデさんの命令か?」