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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
十二
栄介は頭を起して、思わずうなった。
「なるほど。これがあんたかね」
栄介は加納の顔を見て、また視線を写真に戻した。写真の像は若々しく、とりすまして、希望の色を眉宇に滲ませている。
「なるほど。若いねえ」
「もう二十年も前だからね。若いのは当り前だよ」
加納は答えた。
「用意が出来上るまで、しばらくこれを見てなさいよ。ほら、これが大同の山西銀行の建物だ。この中で自分らは下士官教育を受けたんです」
その建物を背景にして、三人の兵隊が立って写っていた。右端の兵隊が城介であることは、一目で判った。栄介は眼を凝らせて、しばらくそれに見入っていた。
十二
舟宿の奥の間は八畳の部屋で、壁面には魚拓が何枚かかかげられていた。すべて尺余のばかりで、獲った場所と日時が記されている。縁側にはふりの釣人用の駄竿が、束ねてある。押入れが広く取ってあって、宿泊の設備も出来るらしい。床柱はつるつるしているのに、縁はざらざらと木目が出ている。おそらく舟を解体してつけ足したものだろう。
「どうだい。疲れたかね」
私は栄介に訊ねた。
「背中の具合はどうだ?」
「ああ。少しラクになった」
栄介は背を起した。