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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

母親は黙って聞いていた。肯定も否定もしなかった。

「おれは幸伯父を憎んでるんじゃないんだ。好きでも嫌いでもない」

少しはウソを言っているなと自分でも感じながら、栄介は言った。

「幸伯父はね、まさかの時になると、自分のことしか考えない人なんだ。だから信用が出来ないんだよ」

「お前、まさか死んで来るつもりじゃないだろうね」

母親は思い詰めた表情で、別のことを言った。栄介はぎくりとした。

「生きて帰って来ないと、承知しないよ!」

「お母さん。何故そんなことを言うんだい? 縁起でもない」

母親の語気の荒さに当惑しながら、栄介は言い返した。

「きっと、いや、たいてい即日帰郷になるよ。この前と同じでね」

「それならいいけれど――」

母親は溜息をついた。

「幸さんにはやはり挨拶しといた方がいい。すぐ行って来なさい」

栄介は命令通り幸太郎の店を訪ねた。店の戸は半分閉じられていた。民需に廻す品物がなくなったからだろう。幸太郎は留守であった。応召のことは告げず、彼は家に戻って来た。翌日指定の海兵団に向って出立した。

「それで即日帰郷にならなかったと言うわけか」

「うん」

私の質問に、栄介はうすら笑いをもって応じた。