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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

(おれも大人になったら、年の暮れになると、臼や杵を持ち出して、うちの餅をつく)

子供の彼はその事を信じて疑わなかった。疑うきっかけはなかった。昔からこうする役目は大人にきまっていたし、時世が変ることなんて、夢にも思わなかった。日が東から登って西に沈む。それと同じように、その時それは自明の事実であった。

兄の竜介はもう中学生になっていて、餅を丸める仕事にあき足らず、しきりに餅つきの作業に参加したがって、父や母にたしなめられていた。

「まだまだお前は早い。も少し腰がすわって来ないと――」

事実竜介が杵を持つと、ひょろひょろした。杵が臼のふちにごくんと当ったり、餅に粘りつかれて杵が持ち上らなくなったりした。あれは案外技巧が要るもので、腕に力がついたからと言って、うまく行くものではない。とは言うものの、栄介は四十四歳の今日に至るまで、とうとう杵をふるう機会を持ったことはなかった。今にしてそう想像するだけだ。

「どうですか。背中の具合は?」

医師が訊ねた。

「つめたくはないですか?」

「いいえ」

彼は首を振ろうとしたが、背にかぶさっているもののために、うまく行かなかった。