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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
その点でこの方がはるかに楽しかった。小春日和の前庭の餅つきは、どんなに貧しくとも、愉しい記憶として彼に残っている。ギプスベッドをつくらせながら、彼の胸によみがえって来たのは、本家の餅つきでなく、もちろん自宅の餅つきであった。
「どうです。疲れませんか」
眼を閉じている栄介に、医師は言った。
「いや。いい気分ですよ」
彼は答えた。少しは重いが、ぬくもりが背中全体にひろがるので、その言葉は誇張ではなかった。
「もう済むのですか?」
「いや。もうちょっと厚くしましょう。薄いと折れ曲ったりする心配がある。厚い分には、あとで削れますからね」
その幸太郎に対して、兄の竜介や弟の城介がどんな感情を抱いていたか、栄介は知らない。二人とも死んでしまったから、知る由もない。聞いて置けばよかったという気持、いや、ぼんやりした気分が、今の彼にはある。
やはりその頃だったと推定される。ある日幸太郎は福次郎に、次のような申し入れをした。
『栄介城介の双子の中、勉強の出来る子の大学までの学資を出してやろう。そのかわりに自分に子供が生れなかったら、その子を養子として幸太郎のあとを嗣がせたい』