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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

「まさか」

彼はわらった。

「君に刈らせるぐらいなら、女房に刈らせる。女房は本職の美容師だよ」

彼はのろのろと寝椅子から立ち上り、書斎に入って行った。もう杖は使っていなかったが、背骨をいたわる気分からだろう、動作は緩慢であった。わざとそうしているのかとも私は思う。もっとも彼は昔からのそのそして、不器用なところがあった。バスの階段をずり落ちたのも、そのためだ。

「用事というのは、これなんだがね」

戻って来て元の形に寝そべりながら、彼は一枚の封筒を差出した。封筒は古ぼけて、ところどころにシミさえついていた。

「この差出人を探し出してもらいたいんだ」

「そんな仕事を僕に――」

私はあきれて言った。

「それで僕を呼んだのか。僕は私立探偵じゃないんだよ」

「判っている」

栄介は言った。

「探偵みたいなやり方で探して呉れと、言ってんじゃない。よく近頃の新聞に、何々をゆずって下さいとか、戦時中どこそこにお住いの何某さんを探しています、という欄があるだろう。あれに出してもらいたいんだ。おれが行けりゃ、新聞社に行くんだが――」

「学生を使ったらどうだね。この間の国立病院行きのように――」