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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
「お前はまだ死んじゃいけなかったんだ」
あの下関の造酒屋の階段が、やはり見おさめだったと思った時、彼は胸が怒りのようなものでいっぱいになり、慄え出した。涙は出て来なかったが、慄えはなかなかとまらなかった。
その年の暮れに、遺骨を受領に来いという連絡があった。名古屋からである。下関から出発した人間が、どうして名古屋に戻って来るのか、彼には理解出来なかった。今もなお理解出来ない。
父親の福次郎は、城介が出征して一年ほどたって病死した。今家族と言えば、母親と栄介と弟と妹だけだ。受領に出かけられるのは、彼だけであり、また彼の責任でもあった。
「一体何で骨が名古屋に戻って来るのかねえ」
母親もふしぎがった。
「直接こちらに持って来りゃ、旅費だってムダにならないじゃないか」
と言って、出かけないわけには行かない。栄介は名古屋に出発した。
だだっぴろい寒い営庭で、合同慰霊式のようなものが取行われた。はるか彼方でしめやかにラッパが鳴り、隊長のあいさつや、祭文みたいなものが読まれているらしい。空は晴れて、風が強かった。その風に乗って、時々聞えて来るのだ。もちろん声の意味は判らない。