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ねこはち
猫八
岩野 泡鳴
「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页
「いったい、それは」と、高見さんは穏かな顔つきで初めて質問を出した、「作者が皮肉を言ってる作でしょうか――僕はさッぱり読んでいませんから、意見のあろうはずはないのですが、――今、聴いたところをもってみれば?」
「皮肉には違いないのですが」と、知識がおが切り口上で答えた、「こんな浅薄な程度の皮肉でも作者が満足できるかどうかが問題でしょう」
「そこだろう、ね」近眼は近眼らしくもなく案外にはきはきした言葉であった。「僕もこれは読んでいないが、いったい、あアいう連中の書いてる物はいずれも小器用には纒まってるが、少しも背景や深みがない」
「今、猫八君も言われたとおり」と、知識がおは続けた、「主人公に対する作者の同情は見えてるが、その同情の現わし方がきわめて薄ッぺらなのです」
「薄ッぺらでも生活背景がないことはない」これは主人の発言であった。「ただ薄ッぺらな背景しか持たせることのできない作者だと言えば言えるのだ。T君がこの作をわざわざ提議したのも、今夜出席していないからその真意は分らないけれども、たぶん、纒まってもいるし、またどこか物足りないしというようなところを疑問にして評議してみたかったのだろうと思われる」