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ねこはち

猫八

岩野 泡鳴

「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页

青空文庫

聴いたところでは、今からなお少くとも二三時間は家に帰れない。してみると、その間にも畑の植えつけ苗の根を二本でも三本でもあの根切り虫に切られているかも分らないのだ。

一方にそれを気にしながらも、やがて電車が終点に着いたので、彼も講談倶楽部を懐中にねじこんで、高見さんの後から立ちあがり、ひょこりひょこりと、不自由なからだを出口の方へ運んだ。彼はこの十数年来リョウマチのために半身不随のようになってるのである。人並みならぬこんな身体をしていても、芸が身を助けるの諺で、妻子をまず人並に養って行けるのがありがたかった。

黙って歩いてると、こんなきまじめな考えに沈みがちであるのを、ふと、知り合のでぶでぶ女に出会ってまたうち破られた。

「猫八さん!」かの女はその太った図体を自慢そうに前の方へ運ばせながら、行き違いに、止せばいいのに、こちらへ、その図体にも似合わぬ優しい声をかけた、「今、お帰り?」

「いよう、大山大将!」彼はついまた冷かしてみたくなって、いつもどおり冷かした。横にその方へ向いてぎょうぎょうしく立ち停ったのだが、女が笑いながら行ってしまうので、自分の目を放して言葉でだけ追いかけさせた、「今一つお座敷があるので、な」