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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

(六)松倉屋勘右衛門はお菊を離縁し、真面目な大商人に帰ったそうな。

ではお菊や杉次郎や、弁太などの連中はどうしたか?

いや物語の傍流にいる、こういう人達の運命にまで、立ち入って語るのは無駄なことで、勝れた作家のやることではない。――だからうっちゃって置くことにしよう。

それから数カ月経った時であった。

慶正卿の館の奥で、慶正卿と碩寿翁とが長閑そうに話していた。

「どうだ碩寿翁、感ずるところがあったか?」

「はい、何でございますか?」

「もちろん今回の事件でだよ」

「はい、一つだけございました。……大金剛石の光を見た時、名誉も身分も財産も、生命もいらないと思いましたことで」

「どういうところからそう思ったかな?」

「ただ、そんなように思ったまでで。……つまり、思うに、あの光が、私の良心を眩ましたもののようで」

「その答えは俺には気に入った」

慶正卿は意を得たように云った。

「ああいう素晴らしい品物だから、売ったら大金になるだろう――と云うそういう心持から、誘惑されたのでなさそうだからな」

「はい、その通りでございます。理由は無く誘惑されましたので」

「それはこういうことになるのだ。